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新作能「冥府行~ネキア」

「ホメロスの「オデュッセイア」の第11歌「ネキア」を原作にした新作能「冥府行~ネキア」

ギリシャの演出家ミハイル・マルマリノスが構成と演出を、人間国宝の能楽師・梅若玄祥が出演に加え、節付、作曲、振付を担当し、脚本を能楽プロデューサーの笠井賢一が担当している。」

2015年7月15日に国立能楽堂にて初演。

その後ギリシャでの「アテネ&エピダウロス・フェスティバル」の一環として、世界文化遺産のエピダウロス古代劇場にて7/24に上演された。

下の写真は初演時の国立能楽堂。

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(第11歌あらすじ)
10年にわたるトロイア戦争で勝利を収めたオデッセウスは、海神ポセイドンの怒りをかったことにより漂泊を続ける。

魔女キルケーの助言により、故郷へ戻るすべを尋ねるべく、預言者ティレシアスがいるネキア(冥府)の元へ渡る。

舟が難破して魔女キルケーが暮らす島に流れ着く。

魔女キルケーに
「無事に帰りたければ死の国に行き予言者テイレシアスの予言を聞くように」
と教えられる。

死者の国で会うのは死んだ母親や屋根から落ちて死んだ戦友エイペノル、自殺した宿敵アイアスなど。

テイレシアスから
「海の神ポセイドンを祀れば帰郷できる帰郷後は妻に群がる求婚者達を殺す。」

という予言を聞き、再び妻の待つ故郷へ航海に出る。

さて

BS朝日放送でこのネキア上演の経過がドキュメンタリー

「世界遺産で神話を舞う  人間国宝・能楽師とギリシア人演出家」

というタイトルでとして2016/1/3に放映された。

これが非常に良くできたドキュメンタリ-で大変面白かった。

ギリシャ人にとってネキアは特別に愛着のある国民的な物語らしい。

演出家のマルマリノスによれば
「我々の演劇でできなくはないが最上の形にはならない、能でしか最上の形にならない」

と梅若氏にオファーしたそうだ。

ギリシャに下見に行った梅若師が、エピダウロス劇場の中央で能の最も神聖な曲、「翁」を

「とうとうたらりたらりら・・・・・」

と謡いあげる場面は、想像もしてなかった、二度と見ることの出来ない場面。
思わず鳥肌・・・・ぞくっとした。

オリンポスの神々の物語が演じられてきた2500年前の古代劇場で、日本の人間国宝の能楽師が・能のもっとも神聖な曲を謡う・・・・・・・なんとも衝撃的な神々の出会い。

ちなみにこの謡の台詞・・・・・・呪術的な言葉のようで、意味は解読されていない。
一説にはチベットかイスラムから来た言葉のようだ、とも聞いたことがあるが。

マルマリノス氏によると5世紀にキリスト教が入ってくる以前のギリシヤは日本のような、万物に神が宿る、という考え方があったそうだ。

「古代ギリシャは日本に生きている」と明治神宮にお参りするマルマリノスはいう。

能にも相当造詣が深いようで「楊貴妃」と「松風」がマイバイブル、だそうだ。

今回、冥府行・ネキアを能本に移し替える重要なキーマンが笠井さん。

「西洋演劇から出発してギリシャ劇を学び、歌舞伎・能の仕事をしてきたが、それがギリシャという原点で融合できる。これは俺にしかできない仕事だと思った」

能はそぎ落としてシンプルにしていく芸術。

能の主人公は死者が多く、死んだ母親との再会、というのが非常に多くテーマになっている。
今回も盲目の予言者テイレシアスと死んだ母親との場面に大きなウエイト・見せ場を置いた台本を仕上げた。

できあがった能本に演出家のマルマリノスから異議が出る。

「戦友エイペノスや宿敵アイアスの話が無いとネキアにならない。
ネキアで最も重要なのはアイアス。
これをラストに持ってきて欲しい」

「最初に会う死者エオペノル、最後に会う死者アイアス。
死者達を巡ること、それがネキア。」

本場ギリシャではネキアの読み方が日本とは違うのかもしれない。

ネキアを知り尽くしている、というマルマリノスのネキア、アイアスに対する熱い思い入れ。

演出家マルマリノスの要求する部分はサイドストーリーとしてカットした部分なので、戸惑う笠井さん、梅若さん。

見る方も緊張感があって、失礼だけど実に面白かった。

能を作り上げていく課程、演出でマルマリノスがだめ出しをして変更を加えていく場面、梅若師が能面を選んだり、能本に節を付けていく場面なども興味深かった。

能本は土井 晩翠の韻を踏んだ翻訳をベースにしたそうで、西洋演劇と能・歌舞伎を知り尽くした笠井さんしかできない仕事、さすがにうまい!!

最初の口上

「オリンポスの神々よ 見そなわせ。
我らは東の果て 日のいずる国 
ひのもとの能の一座。
死せる魂を呼び出し。
その声を聞き供養する鎮魂の芸能者。
若き梅の芳ばしき。
オリンポスの神々の地に降り立ち。
死者達の魂魄を呼び戻し。・・・・・・・・・・・・」

の部分なんかカッコ良い!!日本人として思わず身が引き締まるようなセリフだ。

日本での再演は見られなかったが、番組で見たギリシャ公演は大成功でスタンディングオベーション。

思わずジーンとしてしまった。

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