« 梨状筋症候群と思われる症例 (坐骨神経痛) | トップページ | 副神経メモ »

耳ひっぱり

耳を軽く引っ張る、という大変面白い治療法があります。

現在、耳を用いた治療法・健康法が多く存在します。
中国式の耳鍼療法、フランスの医師ノジェ氏による耳介療法は1950年以降に整理された治療法です。
現在は一部の医師、鍼灸師よって取り入れられています。

また、耳たぶ按摩などのような、耳を揉んだりひっぱたりという健康法も中国の導引・按蹻(現在の気功)の流れを汲んで、色々な方法が古くから民間療法として存在していたようです。

例えば江戸時代の白隠禅師による「ひとり按摩の伝」にも「耳を引っ張る」とか「耳をこする」とか耳に関するやり方が3つほど出てきます。

今回紹介する「耳引っ張り」のテクニックはオステオパシーという手技療法の中の頭蓋仙骨療法(クレニオ・セイクラルセラピー)というテクニックの中の一部で、解剖学的な裏付けに基づいた理論的根拠のあるテクニックです。

ですから中国式の耳鍼療法、フランスのノジェ式耳介療法のような耳ツボ療法、反射療法とは、原理的に全然別のものになります。

私が一番最初に、この「耳ひっぱり」を習ったのは、1990年頃でアプレジャー・インスティチュートによる頭蓋仙骨療法の講習でした。

「耳をひっぱる」という、なんだかお遊びのような事で深いリラクゼーションが得られるのには本当に驚きでした。

頭蓋仙骨療法(クレニオ・セイクラルセラピー)は大変素晴らしいテクニックなのですが、全部行うとかなり時間がかかってしまいます。
素晴らしいテクニックなので、治療の感覚を忘れないように部分的なテクニックを必要に応じて治療院でも時々使うようにしていました。
頭蓋仙骨療法の中で、手軽に出来て応用範囲の広いのが、この「耳を引っ張る」というテクニックです。

脳のリフレッシュ、深いリラクゼーションの家庭療法としても充分に使えるので、
以前ウチで発行していた、「からだ通信」という小冊子の4号(1992年10月発行)で耳たぶ按摩の中の一つとして紹介したことがあります。
その後「気の森」という雑誌(5号)向けに書き加えたもの(1994年4月)を古い方のHPに載せています。
 
最近は、他の民間療法の方が色々な「耳引っ張り療法」の本を出したりしているようです。

 

先日、健康雑誌の「安心」さんからメールが有り、今度は「耳引っ張り」という特集やる、ということで取材を依頼されました。

 

「安心」さんでは1992年と1993年に「耳たぶ按摩」の特集で、耳鍼で抜歯麻酔を行った故坂下孝則先生と共に耳鍼記事を書いたので、随分久しぶりになります。

この機会に、家庭で行いやすいように「耳引っ張り」を整理してみます。

他の方は色んな耳引っ張りのバリエーションを展開しているようですから、ここでは頭蓋仙骨療法でのベーシックな考えにしておきます。

耳を引っ張るだけで、頭蓋骨の中では大変複雑なことが起こっています。

最初にざっくりと、効果のはっきりと感じられやすい例を挙げておきますが、
・大脳の深いリラックス。睡眠の改善。
(これは身体の表面をマッサージしたりで得られるリラックスとは次元の異なる感覚です。)
・メマイ、耳鳴り、耳の塞がった感覚、緊張型頭痛、頭重 ,
・目や鼻、喉がスッキリする。
・肩こり、頸の凝りの改善
以上はすぐに分かりやすい、身体で感じ取れやすい例です。
実際は身体では感じ取れない、実に多くの複雑なことが,「耳をひっぱる」だけで頭の内部で起こっています。
やり方

姿勢は

・坐位  或いは
・仰向けで寝た状態
(不眠にも効果がありますから、特に就寝前に行うのでしたら寝た状態で良いと思います。)
坐位の場合

日中のほどよくリラックスする目的で、リフレッシュのひとときとして行うなら坐位の方が良いと思います。
寝て行うとリラックスしすぎて、直後に多少ボーっとしてしまうのが残るかもしれません。

・背もたれの椅子で肘掛けがあればベスト。
肘をおいた状態で背もたれにゆったりともたれかかった状態で行います。

・背もたれのない椅子の場合、適当な高さのテーブルがあればテーブルに肘をついた状態で行っても良いです。

・背もたれ、テーブルもない状態でしたら椅子に座って姿勢をまっすぐに正して行います。
・座椅子とか背中、後頭部ににクッション当てて足を投げ出した状態でもOKです。

 

1.耳の真ん中辺りをつまみます。
人差し指を耳の穴の後ろの耳の出っ張りの前側に当て、裏側に親指を当てて指で耳を引っ張れる状態を作ります。
やりやすい状態でほぼ真ん中辺りで結構です。

 

2.軽く外方、やや後ろ方向に耳を引っ張ります。
大事なのは力加減です。
強く引っ張ると、身体が抵抗してあまり弛まないので、物足らないくらい軽い繊細な感じの引っ張り方で充分です。
頭蓋骨内部は繊細ですから、あまり強く引っ張らないでください。
本当に軽く・・・です。

 

3.呼吸はゆったりとした自然呼吸で行います。
目は軽く閉じても、ぼんやり遠方を眺めてもかまいません。
出来ればテレビ・ラジオなどの雑音のない状況で行いますが、雑音のある状況でしたら、雑音などに気をとられないようにしてください。


そして耳を引っ張ることによって、頭の中、身体の中でどんな感覚が起こるかそれに集中してください。
短いですが一種の瞑想(メデイテーション)のような状態が味わうことができます。


時間は最低1分以上、できれば2分から3分くらい行ってください。
特にタイマー、時計などは準備しなくてもかまいません。

 

4.(このエクササイズの後でまだ仕事などする状況でしたら、終わる前に次の動作を加えてから終わるようにしてください。)
・ゆっくり息を吸いながら足首をゆっくりと背屈(指先を上の方、頭の方に上げる)させます。
・ゆっくり息を吐きながら元の位置に戻します。
この動作を5回~10回行ってから終わるようにします。

 

寝た状態で行う場合。

・不眠にも効果がありますから、就寝時に行いながら寝ちゃってもかまいません。
・エクササイズの後一旦起き上がる場合は、坐位で説明した足首の動作を行ってから、ゆっくりと起きるようにしてください。

 

*通常はとても気持ちが良いテクニックですが、万が一耳ひっぱりで不快感が増すようでしたら中止してください。

*脳内に例えば脳動脈瘤のような重篤な疾患が有る場合は行わないでください。

※緊張を弛めてリラックスするエクササイズですので、その時の体調などによってけだるい感じになるときがあります。

そういう場合は最初は時間を短めにして次第に慣れるようにしてください

※リラックスするエクササイズですので、特に寝て行った場合は直後はややボーとすることがあるかもしれません。直後に立ち上がった場合はふらつかないように注意してください。
この耳引っ張りが効果のあるメカニズムを簡単に説明しておきます。

K45

頭蓋骨は1つの骨ではなくて15種類・23個の骨が縫合という噛み合わせみたいな状態でくっついた状態になっています。
さて、耳がくっついているのは側頭骨という骨です。
側頭骨は蝶形骨、頭頂骨、後頭骨などと縫合という形式で繋がっています。
蝶形骨は内分泌の司令塔である脳下垂体が載っかっている、頭蓋骨の中心部にある大切な骨です。
この縫合にはわずかな隙間部分が有り、多くの動脈・静脈などの血管や大切な脳神経の出入り口になっています。
耳を軽く引っ張ることによって、耳のくっついている側頭骨を外へ開くことになります。

そして側頭骨の繋がっている蝶形骨、後頭骨、頭頂骨との縫合を徐々に弛めて、血管や脳神経の出入り口も弛める事が出来ます。

 

更に頭蓋骨の内側は小脳テント、大脳鎌という硬い膜で仕切られていて、この膜(硬膜と言います)は後頭骨・頸椎一番から仙骨にまで繋がった状態になっています。

 

「耳引っ張り」はこの小脳テントなどの硬膜の緊張も弛めます。
実は頭蓋骨の縫合はほんのわずかに可動性がある状態です。
硬膜で繋がった仙骨と共に、ゆっくり広がったり縮んだりという運動を行っていて、脳脊髄液の全身への循環という仕事も担っています。
(この事が頭蓋仙骨療法という治療システムの考え方のベースになっています。)
下の硬膜の図は「頭蓋仙骨療法」より

Fullsizerender_2

Koumaku

悪い姿勢、頸の凝りや精神的なストレスや後頭部の打撲、かみ合わせ、偏った噛み癖などによって頭蓋骨の縫合を締め付けたり、神経や血管の出入り口が固くなったり、歪んだりして詰まったような状態が多く起こっています。

 

精神的なストレス・緊張があるとこめかみの筋肉ががピクピク緊張してくる経験があると思います。
これは側頭筋という側頭骨にくっついている筋肉が、特に感情やストレスの影響を受けやすいためです。
側頭筋が緊張すると同時に側頭骨周辺の縫合も固くなり、頭蓋骨の内部の仕切り膜の硬膜を通して緊張は蝶形骨などにも伝わります。

 

頭蓋骨内部は大変に狭い空間です。
ちょっとした歪みや縫合・硬膜の過緊張が色んな症状を引き起こしたりしている場合があります。

 

蝶形骨の周囲には海綿静脈洞という静脈の密集地帯があります。
海綿静脈洞は最終的に内頚静脈に合流して頭蓋の外に排出されます。
側頭骨自体も骨の内部を顔面神経・内耳神経が複雑に通過しています。
耳引っ張りはこの側頭骨周囲の緊張を弛めます。

特に側頭骨と後頭骨の間には頚静脈孔という神経血管の通路が有り、
ここを内頚静脈、第9~11脳神経、下錐体静脈洞、後硬膜動脈が通過します。
オステオパシーでは「静脈の排泄」をかなり重要視しています。
簡単に言うと、出口のドブ掃除をして排液をよくしておかないと、頭蓋骨の中で血液が欝滞状態になり、新鮮な血液も供給されにくくなる、ということです。
内頚静脈は頭頸部・顔面部の静脈の本幹になり、とても大切です

この頚静脈孔のある場所は鍼灸のツボでいうと「風池」というツボの更に奥の方になります。
鍼灸の世界ではほとんどの患者さんに用いる万能ツボの一つです。
下、赤い印が後頭骨・側頭骨の縫合部分。
風池はもう少し下の位置になります。

Img_2661

下の写真、緑のシールが頚静脈孔。
風池からはだいぶ奥に入った部分になります。
奥の方で筋肉に覆われているので直接触るのは無理です。
耳を引っ張ることで、この周囲を弛められるのはやはりスゴイ事です。

Fullsizerender

下の写真、頭蓋骨内部 緑のシールが頚静脈孔。

中心にあるのが蝶形骨。
大きな穴空いている骨が後頭骨、その左右斜め上が側頭骨。

緑のシールの貼ってある割れ目のラインを耳を引っ張ることで弛めることになります。

Img_2667

以下は頚静脈孔を通る神経の働きです。
頸の凝りなどによってもこの部分は圧迫状態になりやすく、これらの神経の働きが障害を受けて、色んな症状の原因となっている事も充分考えられることです。

この部位を鍼灸の方でも重要視しているのは面白いところです。
 
例えば頚静脈孔から出ている副神経は肩こりの起きやすい僧帽筋、頸の横の胸鎖乳突筋を支配しています。
 

ひどい肩こりや頸の凝りがあって、凝っている場所をマッサージしたりしてもなかなか弛まない、という場合など、こういう副神経の出口で傷害されているのでは・・・?

 

ということもあります。

 

副交感神経繊維を含んでいる迷走神経、舌咽神経もこの頚静脈孔を通ります。

 

迷走神経は心臓の拍動をゆっくりさせて、胃や腸の蠕動を活発にさせます。

 

舌咽神経は喉の知覚や唾液腺の分泌、嚥下と関わっています。

 

ストレスが続いたり、パソコン仕事で頚が疲れたりした場合も、後頭部が凝り、頚静脈孔が詰まった状態になってきます。

 

ストレスで緊張状態が続いた場合には、胃腸の働きが悪くなるばかりでなく、喉がひっかかる感じがしたり、うまく食べ物を飲み込めなかったり、唾液の分泌が悪くなったりします

 

「耳ひっぱり」はソフトですがダイレクトに縫合の緊張部分を弛めますので、こういった迷走神経、舌咽神経がうまく働いてない状態にも、効果が期待できます。

 

ただ、耳や目、頭、喉がスッキリしてくる、という効果に比べたら、胃腸の症状などは結果が出てくるまでに少し時間がかかるようです。

 

以下は頚静脈孔を通る脳神経が障害を受けた場合に起こりえる症状です。
(頭蓋仙骨療法より)

 

「耳引っ張り」によって改善する可能性がある、とも考えられます。

第9脳神経 舌咽神経が傷害された場合に起こりえる症状。
・嘔吐反射喪失
・多少の嚥下困難
・舌の後ろ3分の1の味覚障害
・口蓋垂の偏位
・咽頭と舌後部の感覚喪失
・咽頭壁後部の運動支配の喪失
・唾液分泌増加。
第10脳神経 迷走神経が傷害された場合に起こりえる症状。
・無声症又は発声困難
・嚥下困難
・鼻を通る液の逆流
・咽頭及び喉頭痙縮
・食道痙縮
・噴門筋痙攣
・幽門痙攣
・軟口蓋の麻痺
・咽頭、喉頭、外耳道の疼痛、知覚障害、無感覚症
・咳
・呼吸障害
・唾液分泌障害
・心臓の不整脈
・胃の機能障害
・腸の機能障害
第11脳神経 副神経 が傷害された場合に起こりえる症状。
(特に頸肩こりに関係しています。)
・胸鎖乳突筋機能障害
・僧帽筋機能障害

« 梨状筋症候群と思われる症例 (坐骨神経痛) | トップページ | 副神経メモ »

a0耳鍼療法・耳ツボ療法」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« 梨状筋症候群と思われる症例 (坐骨神経痛) | トップページ | 副神経メモ »